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ドコライフ別宅

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2016年 03月 26日

干戈 0047

行円たちが続いて中国の台湾侵攻を阻止する手段について検討に入ったとき、

ホイーラー夫人が、気になる情報がもたらされたと告げに来た。さっそく、

詳細を聞くために、モーリス・ホイーラーは相手に電話連絡をとった。

「日本人が4人、FX取引で大儲けした。取引自体は、揃って1年くらい前から

始めたようだが、いずれの取引も少額だった。しかし、ホワイトハウス爆破事件を

挟んで、巨額の取引をしてドルの暴落により、恐ろしいほどの利益を出した。

すでに、SEC(アメリカ証券取引委員会)が動きだしている。しかし、それよりも、

DIA(アメリカ国防情報局)が、もっと、大きな関心を寄せるのは間違いない。

NSA(アメリカ国家安全保障局)も、息絶え絶えとはいえ、CIA さえも、同様だろう。

しかし、なぜか、今は、どこも動きだしていない。4人の日本人のうち、一人は、

日本にいて、残り三人は2~3年前にアメリカに入国し、今の時点では出国した

形跡がない。三人のうち、二人は住所が明らかではないが、ひとりは、シャイアンに

住所を持っている」

「私に車を貸していただけませんか?」

「なるほど。さすがに行動が早いね。シャイアンまでは、100マイル。順調なら

2時間足らずで着くだろう。うまくいけば、帰りには客人を積んでいそうだね。

妻のミニバンのほうが都合がいいかも知れないね。ただし、州境での警備は、まだ

続いていることだろう。しばらく、ワイオミングで暮らすことになることも考えねば

ならないか…」

「恩に着ます」

「もし、想像通りなら、彼らこそ、ワーストシナリオを破り捨てるための鍵に

なるかも知れぬ」



# by dokofuku | 2016-03-26 22:55 | 干戈
2016年 03月 25日

干戈 0046

「第7艦隊が動かないのは?」

「まず、動けば、衝突を起こす可能性が高まり、その衝突が米中戦争の火種になって

しまっては、たまらない。次に、すでに、2隻とも空母が完成している懸念がある限り、

持ち場を離れることはできない。最後に、これが最も重要な理由なんだが、パプアが

陽動作戦だとしたら、第7艦隊は動けないのではなく、動いてはならない」

「台湾侵攻のための陽動作戦という意味ですね」

「そうだ。それ以外にパプア紛争に介入した理由を思いつくことができない。状況が

変われば、パプアなら、あっさり見捨てても中国としては痛くも痒くもないからね」

「アメリカの統合参謀本部が、そこを読み違える危険性は?」

「ありえない。と断言したいところだが、大統領とその家族をぶっ飛ばされて真の

冷静さを保つことができる人物は皆無だろう。だから、ゼロとは言えない」

「ワーストシナリオは、米中戦争勃発ですか?」

「いや、私は、むしろ、中国の台湾侵攻だと思っている。中国は、国内問題だと

言い切るだろう。それを完全に否定できる材料を持っていないからね」

「台湾と関係なく米中戦争が起きた場合と台湾侵攻にアメリカが介入することによって

勃発する米中戦争とは、区別すべきですか?」

「いや。どのような経緯をたどろうと、事が米中戦争にまで拡大すれば、中国は、

決して目を覚まさぬ眠れる獅子だということが再び明白になるだけだ。そうなれば、

ロシアと同じ道をたどって崩壊してしまうだろう。それは、アメリカにとっても

ヨーロッパにとっても利益をもたらす。ただし、ただの一発も弾道ミサイルが

アメリカ本土に着弾しないことが条件だけどね」



# by dokofuku | 2016-03-25 23:16 | 干戈
2016年 03月 24日

干戈 0045

ホイーラーの自宅に到着した。夫人が手料理を用意していてくれて、楽しい夕食に

なった。娘は、すでに結婚して眼科医として働いている。娘のところには、孫が二人

いるそうだ。息子はマサチューセッツ州ケンブリッジにいて大学に通っている。

食後のコーヒータイムを終えると、モーリスの書斎というか、コンピュータールームと

いうか、ずらりと並ぶモニターから流れ出てくる情報の激流の中から、モーリスの

プログラムが評価が必要なもの、注目すべきもの、真偽の度合いを計測すべきものを

次々と、すくい取っては吐き出してくる。それらを行円とモーリスが手分けして、

評価し、プライオリティをつけ、計測し、調査すべき条項を追加しては、夫人に

渡す。夫人は、それらを分析用プログラムに渡していき、検索すべき事柄を整理して

いった。作業は、夜明け近くになって、一段落したので、問い合わせすべき情報を

暗号化して、行円とモーリスがそれぞれの持つネットワークへと送り出した。

ホイーラー夫妻は仮眠のために寝室に行き、行円はシャワー浴びた後、近くを

散歩した。すぐ近くに丘陵地帯が見えるが、そこまで歩くだけの時間はなさそうだ。

ホイーラー家に戻ると、朝食が用意されていた。

「なぜ、中国は、その日のうちではなく、翌日になって爆撃したのだろう」

「そこが、手がかりかもしれないね。これが、一ヶ月後だとしたら、ホワイトハウス

爆破との関連を頬被りするつもりだと言えるだろうが、ここまで近接すると、

言い逃れはするにしても、誰も信じる者はいない。だったら、一日ずらす意味は

何もない」

「それと、肝心なのは、なぜ、パプアなのかだ。今更、天然資源が欲しくてという

ような植民地時代みたいな時代錯誤は起こすまい」



# by dokofuku | 2016-03-24 23:59 | 干戈
2016年 03月 23日

干戈 0044

デンバー空港で満面の笑みで出迎えてくれたモーリス・ホイーラーは、車に乗り込むと

すぐに険しい表情に変わり、行円に告げた。

「3時間前、ハサヌディン空軍基地が爆撃されて、ハサヌディン国際空港ともども、

壊滅状態になった」

ハサヌディン国際空港は、インドネシアのセレベス島南部にある。

「いったい、どこが…」

「中国だよ。遼寧が、西パプアの北の公海上にいる。誰がやったか隠そうとも

していない。爆撃機は、スプラリー諸島のファイアリークロス礁へと戻っていった」

「中国がパプア紛争に介入?」

「その通り。遼寧から飛び立った戦闘機が、すでに、OPM(自由パプア運動)の

作戦行動を支援している」

「第7艦隊は?」

「ロナルド・レーガンを擁する主力は、オキナワ北西の東シナ海上にいるようだ。

ここ何ヶ月かは、ほぼ、常在だな」

「それは、中国純国産空母の完成が近いから?」

「そうだ。情報収集自体は、そこにいたら容易というわけでもないが、圧力としては

相当なものだ。第7艦隊潜水艦部隊も行動を共にしていることは明白だからね」

「パプアには、向かわない?」

「太平洋艦隊司令官は、もちろん、そのつもりだったろうが、本国が戦争状態に

突入しているのに、敵国がわからない今、誰も動けと言えない」

「結局、大統領は…」

「家族共々、絶望的と見ている」



# by dokofuku | 2016-03-23 23:50 | 干戈
2016年 03月 22日

干戈 0043

行円は、早めに宿をチェックアウトしてリッチモンド空港でデンバー行きの

航空券購入とチェックインの手続きをしようとしたが、案の定「別室」へと

案内されてしまった。必要なら、モーリス・ホイーラー以外に強力な身元保証を

依頼することもできるのだが、パスポートにタジキスタン共和国を訪問した

直前の履歴があること、今回の真の目的を明かすことができないことなどを

考えれば、手続きを容易にするためという理由くらいでは、変更するわけには

いかなかった。もし、アメリカ入国後の詳細な足取りを知られた場合、一挙に

疑惑が高まるリスクもあった。まだ、通信網が完全に復旧していなくて、照会に

時間をとられるということもあったが、出発時刻の60分前になっても、「調査」が

終了しなかった。手荷物を預けないので、時間的には、まだ少し余裕があったが、

ついに奥の手のモーリス・ホイーラー本人にデンバー空港で出迎えてもらい、完璧な

身元保証をしてもらうということで、「調査をデンバーに引き継ぐ」ということで

決着した。実は、長期旅行なのに預ける手荷物がないことも疑いを招いたのだが、

数時間に及ぶ「調査」をもってしても、積極的に何らかの嫌疑をかけうる証拠なりを

得ることができなかったのだ。万一、足止めしなければならない人物を入り口で

阻止できなかったとしても、きちんと出口で確認できるなら、責任を果たしたことに

なる。普通なら、出口のデンバーが、難色を示しそうなものなのに、むしろ、積極的に

迎えようとしているようにも受け取れる待遇なのだ。モーリス・ホイーラーは、

いったい何者なのだ?といぶかしむ声が係官の中になかったわけではない。

その日の夕刻、行円はデンバーに降り立った。



# by dokofuku | 2016-03-22 08:49 | 干戈