2016年 04月 02日
照慈からの電話で行円は目を覚ました。無事にフィラデルフィアに到着したことを 報告してきた。さすがに、メリーランド州境の検問は厳重だったようだ。州境だけ ではなく州間高速道路81号では、いたるところで検問があり、そのつど、ひどい 渋滞に遭い、やっと順番が来たら、10人ぐらいの州兵が車内だけではなく、周囲や 車の下まで、くまなく捜索し、その間に3人は別々に取り調べを受けた。やはり、 アメリカはスゴいと、照慈は思った。事件の起きた当日は、さすがに混乱してたし、 組織的な捜査活動ができていたとは言えない。しかし、その日の夜を待たず、 メリーランド州境は固められ、次の日には完璧な検問が実施されている。アメリカは、 幾度も戦争を戦い抜いてきている。だから、ホワイトハウス爆破はテロではなく、 戦争行為であるとの決定を受けた瞬間から、これまでに流してきた多くの血をもって、 あがなった戦争を遂行するためのメカニズムが正確に動作を開始したのだ。 「裕子さんが電話を代わって欲しいと言ってます」 「どうぞと言ってくれ」 「行円さん、無事にフィラデルフィアに到着できました。ありがとうございます。 お礼ついでにというのも変ですが、照慈クンをもう少しお借りできませんか?」 「それは、どういう…」 「はい。照慈クンのおかげで、玲奈の調子が、スゴクいいのです。今後、本格的に 治療を進めていく上で、照慈クンは重要な役割を果たしてくれそうな予感みたいな ものが、この三日間のうちに、どうやら確信に変わってしまったようなのです」 「わかりました。そういうことなら、照慈を存分にお役立てください。ただ、 こんなことを専門家である貴女に申し上げるのは失礼なのですが、玲奈さんを 治癒するには、精神医学だけではなく、宗教にも役割を担わしたほうがいいような 気がします。その意味でも、照慈なら、少しはお役に立てるかも知れません。参考に していただければと思います」 ■
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by dokofuku
| 2016-04-02 01:16
| 干戈
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2016年 03月 30日
引き返すと、三人が乗ったミニバンは灯りを消してゲートから1kmほど入った ところに駐めてあった。バイクを積み込むと、運転を尾沢大介に代わってもらい、 行円は助手席に乗り込んだ。すでに日付が変わっていた。このあとのコースは、 昨夜の州境の大渋滞の時に研究しておいた。必要な衛星写真も、Google よりも 高精度のものを送ってもらっておいた。ウインド・ファームと牧場の中を低速で 南東方向に走り、州境から2.5マイル足らずの地点の CanAm ハイウエイに再び 出ることができた。農場内道路がハイウエイに交叉する箇所にもゲートはあったが、 扉は設けてなかった。 「向こうのゲートは、どのように開けたんだ?」 「ゲート自体じゃなく、横の杭を一本、チェンソーを使って根元から倒しました。 あらかじめ、ゲート横の草むらを歩いてみると溝もなく平坦だったので、ゲートを 迂回して通過することにしたんです。有刺鉄線は、ゲートのところで2本ずつ 短絡させてあったので、ひとつ隣の杭のところで同様に短絡させておいてから 切断しました。ゲートの左右の有刺鉄線同士は電気的には繋がっていませんでした。 倒した杭は、左右から引っ張る有刺鉄線と根元に打ち込んだ三本のボルトで支えて 元通りに見えるようにしておきました」 大介は言われなくても農場内の建物に近づくとスモールライトにして、さらに車速を 落とした。適当な場所があれば穴を掘って、3人のパソコン、スマホ、タブレットを 埋めることも考えたが、州境を越えた今、むしろ持ち帰って、モーリス・ホイーラーに 頼んだほうが、より安全に処分できると思い直した。無事、デンバーに戻ったのは、 白々と夜が明け始めた頃だ。あとのことをホイーラー夫人に託して、行円は、 ようやく深い眠りにつくことができた。 ■
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by dokofuku
| 2016-03-30 12:53
| 干戈
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2016年 03月 29日
「ガレージを見せてくれ。何か使えそうな道具を探す」 行円は、ガレージを見渡して、バールや電動ドリル、シャベルなどを見つけて車に 積み込んだ。 「このチェンソーは、使ったことがある?」 「ストーブの薪を用意するために使うんだ」 チェンソーと混合油、チェンソーオイルを積み込んだ。 「みんな、スマホの電源は切ってくれ。タブレットもだ。じゃあ、出発だ」 CanAm ハイウエイを南下して郊外に出ると、テリー・ランチ・ロードへと右折した。 2マイルほど走ったところで、農場内道路へのゲート前に車を停めた。 「車に積んである道具を使って、このゲートをこじ開けるんだ。中に車が入ったら、 ゲートを壊した痕跡を偽装して、できるだけ元通りにしておく。作業には車のライトを 使えばいいが、必ず一人は車の中にいて、地平線上に車が見えたら、通過して再び 反対側の地平線上に消えてしまうまで待つんだ。中に入れたら、1kmくらい進んで 道路を通る車から身を隠せ。私は、これから、州境の様子を見てくる」 行円は、念のために電気コードでバイパスしておいて有刺鉄線を切断した。単純に 切断したら、警報システムに繋がっていないとも限らない。なぜ、そういう手間を かけるかについても、三人に教えた。 有刺鉄線の隙間からバイクを中に入れ、農場内道路を走った。4マイル足らずで州境に 達したが、案の定、何の警戒もされていなかった。州境を越えて3マイルほど走って さらに様子を伺った。ヒュインヒュインという音が聞こえてくるのは、コロラド州側には 風力発電設備があるためだ。月明かりの下に巨大な風車が何十基も、そびえ立って いるのが良く見えた。 ■
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by dokofuku
| 2016-03-29 18:58
| 干戈
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2016年 03月 28日
居間には、他に二人の三十代の男がいた。それぞれ、タブレットを手にしている。 「重要な話ってなんです?」 「私は、日本から来た僧侶で行円と言います。君たちが、尾沢君、香川君、中村君で いいのかな?」 名前を呼ばれて、三人とも、初めて驚愕の表情を浮かべた。 「間違いないようなので、これから、私が話すことを真剣に聞いて欲しい。まず、 君たちが行った FX 取引にアメリカ証券取引委員会が疑惑の目を向けて動き出した。 どういうわけか、まだ、君らは、ここに安穏としていられるが、それは長くは 続かない。君らの口座は、おそらく、すでに凍結されているか、厳重な監視下に 置かれているだろう。ただ、相手が証券取引委員会だけだったら、君らの命まで 奪われることはない。それよりも、アメリカの軍事や情報を司る当局が、いつ、 動き出すか…すでに動いている可能性もある。君らを雇った側の人間も君たちを 消滅させるために動いているかも知れない。私でさえ、君らの名前と所在を突き止める ことができたのだ。彼らにできないわけがない。君らが命を惜しいと思うなら、 すぐさま、表に駐めてる車でトンズラすべきなんだ。わかるね?」 三人は三人とも、口をパクパクさせて何かを言おうとしたが、三人とも失敗した。 「私が敵なのか味方なのか、君らが判断することはできないし、私も証明できない。 しかし、君らに味方なんていると思うか?私は、たった一人だ。どこかの組織が 動けば、必ず複数の人間がやってくる。場合によっては、何十人という兵士に 囲まれてしまうだろう。私に賭けるだけの価値が十分あることは、わかるだろ? 持って行く物は、今回のことに関わる証拠関係のみだ。しかし、手に持てる程度で 数分以内に用意できるといったら、パソコン、スマホくらいに限られるか? 家の中で動いてる電気製品、灯りは消さない。施錠はしていく」 ■
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by dokofuku
| 2016-03-28 17:00
| 干戈
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2016年 03月 27日
モーリス・ホイーラーが、近所に住む学生に交渉して、ミニバイクと積載用ラダー レールをセットで借り受けて、ミニバンに搭載してくれた。州間高速道路25号線の 州境検問は厳重で大渋滞を起こしていた。さすがの行円も昨夜以来の寝不足が 堪えてきたが、時折、車列が前に進むので眠るわけにもいかない。いよいよ、 どこかに車を駐めて、本格的に仮眠をとろうかと思い始めたときに、突然、渋滞が 解消して、一気に州境に到達した。おそらく、あまりの渋滞に多くのドライバーの 忍耐が臨界に達して、次々とUターンしたり、インターで降りて別道を探したり という行動がなだれ現象を起こしたのだろう。おかげで、州境の検問自体は、 1時間で抜けることができた。それでも、シャイアンに到着したのは夜も遅い時間に なってしまった。 その日本人グループに、どうやって会うのかという具体的なプランを行円は持って いなかった。とりあえず、唯一の手がかりである尾沢という男の住所へと車を 走らせた。州議事堂に近いのに、アパートメントではなく庭付きの小ぎれいな 一戸建てだった。灯りが点いている。家の前に駐車して行円は玄関ドアをノックした。 誰かが在宅している様子であったことにも驚いたが、何の警戒もない様子で 三十歳くらいの男がすぐにドアを開けたのには、さらに驚いた。 「私は、行円と申します。日本から来ました。重要な話があるので、中に入れて 欲しいのですが、お許しいただけますか?」 ドアを開けたのは、拓也だった。訪問者が僧形の日本人だったことには驚いたが、 即座に「どうぞ」と行円を招き入れた。 ■
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by dokofuku
| 2016-03-27 13:30
| 干戈
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