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2014年 10月 13日

生えちゃったの 最終回

 わたしたちの子供の中には、両性はいなかった。男の子が4人と女の子が5人だ。

 これは、おアヤの予言通りだった。Z染色体は、遺伝しない。Z染色体は、体内で

 形成されるものではなく、体外からやってくる(厳密には、そうとばかりも言えない

 のだが、そのようなふるまいをすると考えたほうが、わかりやすいと、おアヤは

 言った。そういう表現の仕方自体が、わたしにとっては、じゅうぶん、難解だけど)

 Z染色体は、体内のすべての細胞に寄生生物のように拡がっていく。しかし、

 それは、個体内に限られ、胎児といえども感染することはない。まして、別の個体に

 感染はしない。たとえ、一卵性双生児間においても同じなんだそうだ。むろん、

 こうしたメカニズムすべてをおアヤは証明したわけではない。証明されたことと、

 機知の事実から、非常に緻密な理論を組み立てて、予想したのだが、その後、

 世界中の学者による研究によって実証されつつある。

 9人の子供たちも、最後の一人が今春大学を卒業した。長男と次女のところには、

 孫もいる。わたしたちは、3人の孫持ちだ。慶子は、酪農大学校のフィールド研修科

 受講のために、先週から単身、中国地方の山間に下宿している。慶子は、50才の

 時から、いろいろ技術を身につけたり、学生になったりしてるくせに、ずっと

 無職のままだ。わたしは、子育ての最中から書道を習いだして、昨年は、日展の

 特選をとれたと思ったら、不正審査問題で、大荒れに荒れちゃったから、やった!

 上納金 お礼の金額を減らせるかと思ったんだけど、そういうものでもないらしい。

 ちぇっ。えらい散財させられたよ。

 今でも、生えちゃった朝のことは、鮮明に記憶してる。人生を根本から変える

 ような一大事に出会っても、当事者は、即座にそれと知ることはむつかしい。

 こうして、あとから振り返っても、明らかに生えちゃったから起きたと断定できる

 ことって、驚くほど少ない。今現在、Z染色体による両性は、全世界に3千人

 程度と推定されている。この数って、多いのか少ないのか、わからないけれど、

 世代的には、わたしたち以前には、ほとんどいなくて、わたしたち以後、5歳下

 くらいまでは、増加傾向にあったが、そのあとの世代では、急速に減少していった。

 わかっている限り、15年前の発生例が最後と言われている。

 世界中で、今日も、さまざまなことが起き、それらすべてには、理由があるが、

 その理由の全てを我々が知りうるというものでもないと、おアヤは言う。わたしも、

 まったく、そのとおりだと思う。


by dokofuku | 2014-10-13 00:20 | 生えちゃったの


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